串喝談義

今でこそ四季とりどりの串カツ百撰の内約三〇種等と商賣させてもろとりますが、矢ッ張り串カツは冬の風物詩の様な氣がいたしてなりません。

 昔、大阪の町中に霜枯れの冬の灯ともし頃ともなりますと、小学校の屏際など電車道にそった窪だまりの葦簾張りに「二カツ」「三カツ」の赤提灯が夕暮れからともったもんでした。「二カツ」それは一本二錢の串カツでっせ。上等の店が「三カツ」三錢でした。肉とジヤガ芋と玉ねぎの串カツしかおませなんだけど、キャベツだけはブツに荒々しう切って長方のホーローバットに大盛に入っとりましたなア。

 私の生れ育ったところが囃喉場(大阪の昔の魚河岸)でしたさかい、馬方、船ど衆や、小廻し丁稚さん等が、揚げたてのアツアツをドボドボにソースつけてフーフーゆうて喰べてはったもんだす

下賤な食べ物や言うて、およそ料理などとはおくびにも言えた代物やおませなんだんと違ひまっしゃろか。子供心にも、一ぺん喰べてみとうてみとうてぼんさん(丁稚)に連れてってもろうた迄はよろしおましたけど、どこでどうわかってしもたかは今以てわかりませんけど、お袋さんにわかってしもうて、ぼんぼん、お家さんや御リョんさんに、えらい叱られましたさかい、氣ぃつけとくれやっしゃ、と教えて呉れたとほとんど同時に、私もえらいおこられた記憶がおます。「そやけどほんまにおいしいもんでした。新門亭さんのすき焼よりおいしかった…」言ふて二度叱られた子供の頃の想ひ出がおます。

 衒ひも何んもあらへん、ほんのちょぼっとのお駄賃で喰べられた、正味正まつ、本眞物の空腹をいやす食べもんやったんと違いまっしゃろか。

葦簾張りの露店でしか商賣をなし得ませなんだ串カツを店舗の中に入れて鳥獸菜魚貝實その他諸々の海山里の四季折々の旬の好物をそれぞれの持ち味を生かし合ふ好取組に創りあげはりまして、戰前、戰中、戰後を今日迄それこそひたむきな愛情ではぐくみ育てなさった方が五味八珍の先代岡田繁雄さんであり、知留久の當代松村喜藏さんです。でっさかい、五味八珍さんは串カツの元祖であり、知留久さんは八丁味處串の坊の本家な譯でおます。ご両家はご両家なりに、私共は私共なりに「楽しいお店でおいしい串カツを安すう喰べてもらいまひョ」唯だそれ丈を商賣のよすがとして今日迄勵んで参ったもんでおます。

屋號の枕につけさせて頂いとります「八丁味處」ももう遠の昔にすたれてしもうた大阪辧の「ハッチョミトコロ」と云ふ方言をもじって「中途半端な、やりっ飛ばしナ」そんな意味合ひの方言でっけど、そんな事になったらどだいあきません。文字通り東西八丁に亘つて味な處(お店)やナとどなたさんにもお褒め頂いてお引立賜らナあきません。そんな願ひを込めて付けさせてもろうたもんでご座ります。串のカツレツ「串カツ」は、氣さくにお好きなもんをお好きな様にお好きな丈喰べてもらいますのんが串カツ屋やとおもとります。どうぞよろしゥおたのもうします。

店主敬白

串カツいろいろ

 串のカツレツ、だから「串カツ」。関東地方では串揚げと称されることも多いのですが、串の坊は正に「串カツ専門」として今日まで商いさせて頂いて居ります。串カツにはネリヤと呼ばれる特製の衣とパン粉が纏われているため、黄金色に揚がったその姿はどれも似たように見えますが、その一本ずつには食材の組み合わせのアイデアと手間、また食材そのものの持ち味が相まって、様々な味のバリエーションが創り出されて居ります。

その所為もあってか好き嫌いの多いお子さまをお持ちの親御様から「串の坊の串カツであれば何でも食べられるんですよ」などと嬉しいお声を頂戴することも屡々です。

鳥・獣・菜・魚・貝・実・その他四季折々の串喝百撰の内、約三〇種を次々に御揚げして参ります。 よろしい処でお止め下さい。

お好きなものを、お好きなだけ、お好きなようにお召し上がり下さいませ。

※写真ギャラリーに記載のネタの種類や素材は地域や店舗により異なることがございます。

串喝食-串カツの食べ方-

 

 「串カツの食べ方」とは称して居りますが、串の坊ではお客様には基本的に「お好きなようにお召し上がり下さい」とご説明して居ります。

 まず、おまかせコースを注文されたお客様には職人より一本ずつ揚げたての串カツが次々と揚げられていきます。肉類、魚貝類、野菜類などバランス良くタイミング良くお揚げして参りますが、「もっと早く揚げて!」や「もう少しゆっくりと!」などお気軽にお申し付け下さいませ。 また、特製のタルタルソースや甘酢、田楽味噌、ウニソースなどが既に付いている串カツも御座居ますが、それら以外はお席に御用意させて頂いて居ります調味料でお好みによりご自由にお召し上がり下さいませ。調味料はどれも手造りのオリジナル品です。少しスパイスを効かせた串カツソース、徳島産のスダチと山口産の橙酢を合わせたポン酢、白胡麻を時間を掛けて香ばしく煎って配合する胡麻岩塩、独自のブレンドでマイルドさとツンとした辛さを効かせた胡麻からしソースをご用意しております。※店舗により種類の異なることが御座居ます。

アツアツの串カツを頬張って、キャベツのぶつ切りと野菜スティックを囓り、最後におぶ漬け(お茶漬け)でサラッと締める。こんな風にご利用頂けましたら幸に存じます。また、店舗により特選食材を贅沢に使用したスペシャル串ネタもご用意しております。詳しくは店員にお尋ねください。

オリジナルソース皿について

串の坊のオリジナル食器は二種類ございます。陶器と白磁です。店舗の内装などによって異なります。

テーブルやカウンターに配置しているソースやポン酢をご自由にお使いください。

メインでご利用になるソース(一般的には串カツソース)を中央に、小さめのくぼみにはポン酢や塩などを入れてお召し上がり下さい。

新しくデザインされた白磁のお皿の右上には「串休め」の場所も設けております。